コラム 星降る夜の鑑定士 〜企業評価と事業再生〜
3rd Night 事業再生と企業評価
登場人物紹介
- マリオ:
- 酒と音楽をこよなく愛するバーテンダー。趣味はトランペット。最近は、企業経営にも興味を持っている。
- ジャック:
- 酒と女性をこよなく愛する不動産鑑定士。本人は気づいていないが、流れ星が降る日には必ずマリオのバーにやってくる。
- フジコ:
- 自称「世界中を飛び回る、秘密組織の美人エージェント」。酔っぱらうとコンバットマグナムを振り回す癖がある。
- サブロー:
- 酒と秘宝をこよなく愛する公認会計士。ジャックの親友。特技は決算書と会話をすること。副業で「秘宝探し」の会社を経営していたが、昨年、倒産したらしい。
ここは、南の島のリゾートホテル。スカイラウンジのバーテンダー、マリオがシェイカーを振っています。今夜も降るような星空。
あっ、流れ星だ!
おっ、常連さんの登場ですな。
- ジャック:
- マリオ、そちらの別嬪さんは誰だい?
マリオが意味深げに頷き、女性が振り返ると・・・。
- ジャック:
- フ・・・、フジコじゃねえか。確か3年前にボゴタで会ったきりだな。
- フジコ:
- 忘れちゃったの。去年、カイロで会ったじゃない。
- ジャック:
- そうか。確か、あのときはサブローも一緒だったな。
- マリオ:
- サブローさんって・・・、ああ、決算書とお話しをしながら、魔法のように粉飾決算を暴いていく公認会計士の方でしたね。
- ジャック:
- そう。昨日も、赤字ホテルの企業評価で、お出まし願ったよ。
- マリオ:
- (意外そうな表情で)でも、苦境に立っているホテルオーナーは、そんな鑑定評価書は見たくもないでしょうね。
- ジャック:
- ところが、そうでもないんだ。俺が手がけている企業評価の多くは、経営が苦しいホテルオーナーからの依頼だよ。
- マリオ:
- へえ、そんな需要があるんですね。
- ジャック:
- ああ。銀行にとって一番困るのは、経営が成り立たないわけではない(営業キャッシュフローはプラス)けれど、過去に背負った債務が大きすぎて元利金の返済が難しくなってしまった会社だ。
- フジコ:
- つまり、経営が成り立っていないわけではないが、営業規模に見合った適正な借入金額を大幅に超えているため、現状で返済を迫れば破綻してしまう・・・ということね。
- ジャック:
- 破綻してしまえば、銀行は清算価値(土地や建物を叩き売った資金)から配当をうけることになる。
- フジコ:
- でも、叩き売ったら、二束三文でしょ?
- ジャック:
- だから、銀行は、ホテルを存続させることにより、より多くの債権を回収できると判断すれば、存続させる道を選ぶ。
- マリオ:
- えっ、そんな旨い話があるんですか?
- ジャック:
- もちろん、経営者は経営責任を果たす必要がある。しかし、ホテルを存続させることにより、従業員や取引先は守ることができる。
- フジコ:
- (空のグラスを回しながら)経営者が犠牲になることによって、企業を守ることができる。でも、経営者にとっては難しい判断ね。
- ジャック:
- 昨日のホテルは、社長の息子が新会社を設立し、その新会社に企業評価による鑑定評価額で資産を引継ぎ、現社長の息子が社長となって営業を続ける予定だ。
- マリオ:
- なるほど。企業評価による鑑定評価額は、投資採算価格とも言えるから、新経営者にとっては無理なく事業を継続でき、銀行にとっては最大の資金回収ができるギリギリのラインを提示しているというわけだ。
- ジャック:
- そう。銀行もそういう価格の鑑定評価書を入手することにより、内部手続や税務手続上の問題をクリアできるから、これで、みんなハッピーになれるだろ。
- フジコ:
- マリオ、もう一杯もらおうかしら。

恐怖に引きつった顔でジャックを見るマリオ・・・。
- ジャック:
- お、おい、フジコ。そのへんで止めておかねえと、美人が台無しだぜ。
- フジコ:
- あら、マリオはそんなこと、言わないわよね。
- マリオ:
- (胸に手をあて敬礼して)女王陛下の仰せのままに・・・。
- フジコ:
- いい心がけね。・・・(ウイスキーをグイッと飲み干すと)フゥ、酔っぱらっちゃったみたい。
バッグから何かを取り出そうとするフジコを見ると。
- ジャック:
- マリオ、逃げろ!
二人がバーを飛び出すと、エレベータの前でバッタリ、サブローと出くわします。
- サブロー:
- その話、信じてたの?バ・カ・だ・ね・ぇ
- マリオ:
- だって、フジコさんは・・・。
- サブロー:
- 秘密組織のエージェントって、この娘がねぇ・・・。
バッグから携帯電話を取り出す途中で眠りについたフジコの髪を撫でながら・・・。
- サブロー:
- この娘は、ただのアルセーヌ・ルパンの大ファン。せめて、この店の中では探偵小説の主人公でいたかっただけなのさ。