コラム 星降る夜の鑑定士 〜企業評価と事業再生〜
2nd Night 企業評価
登場人物紹介
- マリオ:
- 酒と音楽をこよなく愛するバーテンダー。趣味はトランペット。最近は、企業経営にも興味を持っている。
- ジャック:
- 酒と女性をこよなく愛する不動産鑑定士。本人は気づいていないが、流れ星が降る日には必ずマリオのバーにやってくる。
- サブロー:
- 酒と秘宝をこよなく愛する公認会計士。ジャックの親友。特技は決算書と会話をすること。副業で「秘宝探し」の会社を経営していたが、昨年、倒産したらしい。
ここは、南の島のリゾートホテル。スカイラウンジのバーテンダー、マリオが客のリクエストに応えトランペットを吹いています。今夜も降るような星空。
あっ、流れ星だ!
ほら、常連さんがやってきました。
- マリオ:
- いらっしゃいませ。
テーブルには、いつものお酒が置いてあります。
- ジャック:
- 君の予知能力には本当に驚くよ。
マリオは、前回、話をきいた「収益価格」に興味を持ったようです。
- マリオ:
- 収益価格っていうのは、銀行預金と利息の関係に似ていますね。
- ジャック:
- そのとおり。どちらも、いわゆる「元本と果実の関係」が成立している。
元本と果実の関係
銀行預金
預金金額 × 利率 = 利息
(元本) (果実)不動産
収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
(元本) (果実)
- ジャック:
- 要するに、利回り(利率、還元利回り)を介して、元本と果実には一定の相関関係があるということさ。なので、純収益と還元利回りを査定できれば、価格が決まる。
- マリオ:
- 純収益ですか・・・。でも、ホテルの収益分析は不動産鑑定士とは畑違いじゃないですか?
- ジャック:
- そうなんだ。だから、俺は、サブローに任せることにしている。
- マリオ:
- 公認会計士のお友達がいてよかったですね。
- ジャック:
- あいつも、そろそろ来るはずなんだが・・・。
窓の外は灯台の明りに照らされ、白く泡立つ波が、寄せては返し、寄せては返し・・・。
おっと、居眠りをしてしまいました。
- サブロー:
- ・・・そうじゃない。決算書で利益が出ていても、数字は「苦しいよ」とか「助けて」とか語りかけてくる。それを読み解くのが公認会計士の仕事さ。
- マリオ:
- 数字が、お話を・・・するんですか。
- ジャック:
- こいつは、本当に決算書と会話ができるんだ。決算書を見ながらオーナーを問い詰めて、粉飾を次々と暴いていく。このまえは、危うく黒字の決算書を信じて鑑定評価書を書いちまうところだった。
- マリオ:
- 餅は餅屋ってことですね、旦那。
あっ、そうだ。叔父が「うまい儲け話があるから・・・」って言うんで、会いに行ったら「この会社に投資しろ」って言われたんです。決算書と会社概要をもらってきたので、見てもらえますか。 - サブロー:
- 君の叔父さんが経営する会社だね。どれ、決算書では利益が出ているね・・・。
決算書の綴りをパラパラとめくり、損益計算書と貸借対照表を見比べたり、過去の決算書と比較したり・・・。電卓を取り出し、いくつか数字を打ち込むと。
- サブロー:
- かわいそうに・・・、こんな姿にされちまって。
- ジャック:
- そんなにひどいのか。
- サブロー:
ああ・・・。人間に例えると、危篤状態だ。まず、減価償却費が少なすぎる。固定資産のボリュームを考えると・・・、(電卓を叩いて)このぐらいはあるはずだ。それと、営業債権がこんなに多いのは理解できない。おそらく回収可能性に問題があるだろう。それに・・・。- ジャック:
- そうか。で、結論は?
- サブロー:
- 残念ながら4、5年前から実態は赤字だよ。このまま行くと、半年と持たないだろう。
- マリオ:
- あのやろう!コケにしやがって。
カウンターの下からライフルを取り出すマリオを見て。
- ジャック:
- はやまるな、マリオ。話を最後まで聞こう。それで、この会社はもうダメなのかい?
- サブロー:
- いや。かなりの荒療治だが、立ち直るための処方箋はある。まず、この規模の会社にしては従業員が多すぎる。数年前に多角化のため大量に採用したが、どの事業もじり貧だ。不採算事業から直ちに撤退し、本業に経営資源を集中することにより本業を立て直す。気になるのは、多角化した頃から、どういうわけか本業の人員も増加している。会社全体がぬるま湯に浸かっているような状態だ。
- ジャック:
- おい、まさか、君は「日本人のように働け」と言う気じゃないだろうな。
- サブロー:
- 冗談じゃない。この国の人間に、それは不可能だ。日本人の半分ぐらい働く人を見つけたらラッキー。まったく、こんな状況で、よくこの国の経済が成り立っていると思うよ。
- ジャック:
- (小声で)クレイジーなのは日本人の方だと思わないか?マリオ・・・。
- サブロー:
- ・・・それと、直ちに人員を整理して、不採算事業から撤退する。そして、遊休資産を売却して債務を圧縮すれば・・・。ジャック、5番街の地価は、かなり上昇しているはずだよな。
- ジャック:
- ああ、少なくとも2倍にはなっているだろう。
- サブロー:
- そうすると・・・。よし、なんとか営業キャッシュフローは確保できるはずだ。
- ジャック:
- まるで会社の救世主のような知識と経験を持っているのに・・・、確か、おまえの会社、去年潰れたんだよな。
- サブロー:
- ああ、事業目的が「秘宝探し」っていうのが失敗だった。秘宝が見つからない限り、事業収入が全く入ってこない。
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